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話は、僕が手袋メーカーで修行していた頃にさかのぼります。
職人見習として、一日中グローブ作りの作業に携わっていた頃、同年代のOと出会います。Oはアウトドアブランドの担当として、中国の工場と日本を往復する日々を過ごしていたのですが、ある日、ともに作業をしていた作業場でこんな会話をしたのです。
「俺はこの仕事(日本と中国を行き来する仕事)をしたくて、ここにいるんじゃない・・・」と。
コスト・品質など様々な制約から生まれる商品じゃなくて、自らの手で妥協の無い物を作りたい。それをいつしか世に問いたい。そんな仕事がしたいと。
それから数年後、Oは会社を飛び出していったのです。両親から引き継いだ小さな手袋工房の一角で、自らが理想とする鞄作りを始めたのでした。
そして僕も数年後、同じく「自らの物づくりを世に問いたい」と退職し、オートバイ用グローブを作る小さな工房を開くことになったのです。
時は流れ2009年。偶然Oと出会い、再び意気投合。そして二つの工房が手を組み、新しい鞄づくりが始まりました。鞄のコンセプトは「メイド・イン・カガワ」。香川の技術を最大限生かした物づくりをしようと決めたのです。
香川県は、縫製業の盛んな土地で。その裁断や縫製といった製造技術は、他の産地が真似しようとも簡単にできないほど、経験や技術が必要です。
二つの工房ともに、ベースとなっているのは手袋で培った技術。その緻密で繊細な技術で鞄が作れないものかと・・・。そして互いに得意分野を持ち寄り、鞄づくりが始まったのです。
商品の方向性や得意とする革の加工は、僕の工房が担当し、帆布の裁断や縫製は、Oの工房が担当することになりました。
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Oの工房にて。4号帆布の使い手としては「自称日本一」(笑)。
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帆布を使った鞄というは、世の中に数多くあります。新品状態では、どれも甲乙つけがたいのですが、クタクタに使い込んだ後、格好良い鞄とそうでない鞄に別れます。その違いは、ずばり帆布と革の品質の違いにあります。
今回選んだ帆布は、本場倉敷で織られた物。天然素材ならではの見た目の優しさや手触りの良さなど、未だ海外製に負けていない素材の一つと言えます。
中でも選んだのは、糊付け加工だけの極厚帆布。無骨でザックリとしたその風合い、色ムラのあるその表情に惚れ込み、使っているのですが、唯一の難点はその加工のしづらさ。折り返しをしようとも簡単には曲がらず、何度も金槌でたたかなければならないほど・・・。
革は、屋島工房のグローブ用レザー。しっとりとしていて、ソフトな手触りをもちながら、それでいて強靭。特に注目なのが、フィンランドエルク。こちらも3.5ミリ厚以上と極厚の素材ながらも、手袋にできるほど柔らかいのが特徴です。その革シボの表情は一枚一枚異なり、使ううちに新しい味が加わっていきます。生きていた頃に付いた小さな傷も織り込んでいて、革のパーツは一つとして同じものがありません。
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スタイルは、基本的にショルダーバッグが中心。それは、屋島工房がオートバイユーザーの集まる店だから。ひっくり返っても中身が落ちないよう、配慮するなど、二輪に乗ることを前提に物づくりをしています。
しかし、二輪に乗るための機能ばかりを追い求めていくと、バッグの方向性はどんどん違う方向に・・・。僕の欲しいのは、バイクに乗るだけじゃなくて、ビジネスでもストリートでも使えて、そして男女問わず使えるアイテム。
それはあえて洗練され尽くしたデザインで無くてもいいのかも。帆布やエルク・オイルドレザーといった天然素材が映えるデザインにしたかったのです。
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